Another POMPEI
遡上、放電接近が人間の知覚能力の範囲内で有効になるずうっと手前で、突如犬のような非視覚的感覚で何かを諒解できるといいのであるが、逆に足跡も臭跡も、まだ遠くへは行っていないことを知らせるはずの温かい痕跡も、悉く見失ってしまう。指先に熱を集中して、誰かの遺した痕跡を辿りながら、実はそれを炙り出すのではなく、己の指紋をふき取って回っていのるではないか、という疑念はいつかも覚えのあるサスペンスである。何故なのか。何故しるしを消してあるくのか。まるで追跡されているかのように。
谷川の音、そこに入れば、追って来た犬の嗅覚も無効になる。犬が岸辺で猛るのが水の中に聞こえてくる。そして、できる限り息を止めて、川上へ溯る。
こうして自分が打ち消すものによって魅惑されるのである。
暗い水に覆われた遺跡は、訪れくる者によって、濁りきって何も映さなかったり、暗く澄みきって、潜伏していた熱病や埃の下になっていた衝動が他の誰かの頭や舌に感染して放電を起こしている。
大地震の来る前に、地下に蓄積した摩擦と緊張の極限に於いて岩々が押し潰されたり、地下水の流れが変わることによって「ball lightning」が発生し、空中を漂うように。


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