Saturday, January 16, 2010

唖然たる思い

  超絶技巧練習曲「アナクシマ」止

      絶対絵画「私はラズモフ氏である」

         ― 唖然たる思い ―

                 

                一九八九年  冬

                 繞々乎 第28号

            目     次

「野蛮・冬の砂糖」           草森  恒四郎

マリボルの譫妄             毛利  章


      「野蛮・冬の砂糖」


コップの中には、それぞれ異なる高さまで

水が入っていた。

フィヨルドの底に、沈鐘があらわれて来た。

何も質問はしなかった。失くしたつり針のこ

とも。

「並木道ホーフイェーガーアレーは、そう

いう名まえでどんなにたくさんの約束をして

くれながら、約束を守ることはほとんどない

のだった」

 照明が暗がりを克服したわけではなかった。

長時間露出によって暗がりからもがき出て来

るものは、すぐ曇天の午後に行方知れずにな

っていった。

 時間をかけて降り積もった埃の上に、足音を

しのばせる見知らぬ人が、形跡だけでなく、

ルビーさえも部屋に遺し去った。

 廃墟は、悲しんでいない。はしゃいでいる

のでもないが。、ざわめきの亜種。そこに立つ

と、ぼくが誰であるか、認識されたと感じる。

 頑固に名づけがたい唖の物質がそこにはあ

った。遠方と夜がであうところ、原初の悪が

ある。誰のためにあるのだろうと思うような

地球外的・有史以前の直線性を、ぼくは礼拝した。

ぼくが質問をしに行く場所があった。打ち

棄てられた赤レンガの大きな炉がむき出しに

なっていて、2本のボルトが、異なる高さで

空気に触れてつき出ていた。耐火レンガの大

きな炉とボルトの上に陰暦の雪が降る日には、

その場所は、青粘土の露頭している場所や猿

桃のなる場所、魚のいる場所のように励起され

た、予言の能力を有つ、他の暦の、他の土地

であって、ぼくは「野蛮・冬の砂糖」につい

て質問するのだった。

「エイドーラが人に近づいて来る。それは

人によって姿を見られ、声を聞かれることに

よって、彼に将来を予示する」

 ぼくは、ぼくの消滅した2040年の家が

どんなだろうと、木箱の中に隠れていた。ぼ

くは、カーテンの蔭に隠れてカーテンを模写

して身体を励起させるように、鏡が誰もいな

い部屋を呑みこんでいるように、2040年

を模写しきった。

 この生体実験は、後遺症となった。

 何もしていないのに、誰かに(もしかする

と孫次郎に)追われていると感じ、出自と系

譜の合図のほかに、ぼくは世からいなくなれ

る、という異様な配列を知った。

のぞきあなは、賭博者を麻痺させる流出の

瞬間(目)のように、部屋全体に見られると

いう魅惑だった。

 「ふしぎに思ったのは、女が入浴しながら

ミカンやニギリメシを食べることだ。何回も

見た。」

 (未分類の剥離像が人に降りかかる)

 遠方と夜が出会い、身をまかせるようにと

うながしかける犯行現場に(何事かが終って

誰もが見過ごしたセピア色の予言の能力が

壜詰標本のように威力を太らせている場所

に)「野蛮・冬の砂糖」と感じられる雑多なも

の、貿易の痕跡を陳列したショーウインドー

の照明に照らしだされた顔面は、大きな迂

回をする白色雑音となって通りかかった。

 フィヨルドの底に、沈鐘があらわれて来た。

何も質問はしなかった。失くしたつり針のこ

とも。

コップの中には、それぞれ異なる高さまで

水が入っていた。

 ぼくはなんども見に行った。何の変化もな

いのに、とりかえられてしまっている。

 部屋には言ばを話す力が潜む。それはお

しゃべりではない。身体を励起する固有名の

意味の襲明なのだ。

 2月26日の陰毛を有つ被造物は、上にな

って交合っていた。藻掻き出て来た柔らかな

象形に、部屋も彎曲し、誰かが話す。

 名づけられるのを待って、だがそうならな

い象形は多い。

 テレビはぼくの顔面のようにずっと白色雑

音だった。

 (仮死状態の女を横にして陰部を見ること

の何とも言えぬ愉悦について供述する小平

義雄は、南京の無重力の地で日本兵が数

知れぬ中国人を斬首するのを同時になぞ

っていた)

  

超絶技巧練習曲「アナクシマ」止

      絶対絵画「私はラズモフ氏である」

          ― 唖然たる思い ―

                 (絶には確かに唖という物質が流れている)

                一九八九年  冬

                 繞々乎 第28号

            目     次

「野蛮・冬の砂糖」           草森  恒四郎

マリボルの譫妄             毛利  章

      「野蛮・冬の砂糖」

コップの中には、それぞれ異なる高さまで水が入っていた。

【こういうことはよくあり、何となく夢中には意味ありそうだが、何の意味もなく、かといって空しくはない。ふと建設中の田舎の家と、隣の古い家の記憶(ぬぐいされないものがある)をおもいだす。】

フィヨルドの底に、沈鐘があらわれて来た。何も質問はしなかった。失くしたつり針のことも。

Debussyの「沈める寺」と、例えば、ピンが塔にみえるような、睫が巨大なインベーダーのような、そんなものにみえるのに似る。きっと、つり針が増殖した。相同ということ。】

「並木道ホーフイェーガーアレーは、そういう名まえでどんなにたくさんの約束をしてくれながら、約束を守ることはほとんどないのだった」

Hope Aegar Alley マラソンの円谷のことか、瀬古のズルネズミに嫌気がさして】

 照明が暗がりを克服したわけではなかった。長時間露出によって暗がりからもがき出て来るものは、すぐ曇天の午後に行方知れずになっていった。

【人工的な営為は、闇に住むものにとっては何の効果もなく自閉がちに貝の中に閉じこもる。】

 時間をかけて降り積もった埃の上に、足音をしおばせる見知らぬ人が、形跡だけでなく、ルビーさえも部屋に遺し去った。

【悲しむように記憶は、それ自体残り、その記憶は、一体誰の記憶かしら。たぶん、ストレンジャーで、同時にある私が、艶めかしい、くぼんだ足跡に、はめこめるほどの記憶の宝石をおいていった。三味の音が埃としてつもることも当然ある。津軽。】

 廃墟は、悲しんでいない。はしゃいでいるのでもないが。、ざわめきの亜種。そこに立つと、ぼくが誰であるか、認識されたと感じる。

【廃墟は「ぼくが誰であるか」ということ自体を、押し出す自然(じねん)の力がある。つまり「流」という場を、ぐっと吸い込んでしまう大いなる「陰」的なものがある。】

 

頑固に名づけがたい唖の物質がそこにはあった。遠方と夜がであうところ、原初の悪がある。誰のためにあるのだろうと思うような地球外的・有史以前の直線性を、ぼくは礼拝した。

【ぼくたちが魅かれるもとには、鬼がいて未だみぬもの、つまり夜と遠方があり、これは一端生をうけたものの、どうしようもない宿命的なもので、死にひかれる謂であり、「したい」という願望は「しにたい」の短縮形である。人類という種が現れたため、事は、地球内的になり、有史になった。】

ぼくが質問をしに行く場所があった。打ち棄てられた赤レンガの大きな炉がむき出しになっていて、2本のボルトが、異なる高さで空気に触れてつき出ていた。耐火レンガの大きな炉とボルトの上に陰暦の雪が降る日には、その場所は、青粘土の露頭している場所や猿桃のなる場所魚のいる場所のように励起された、予言の能力を有つ、他の暦の、他の土地であって、ぼくは「野蛮・冬の砂糖」について質問するのだった。

【質問をしにに行く場所。レンガの炉は「火宅無常」が崩れ、冷え冷えと、腐って干涸らびた苔の生えた白い灰のように陰のような雪がふり、かすかに時にきざまれてある。2本とは二元論であろう。差別のある。予言とは、つねに荒廃の地に横たわり疼いている。時が経て、我があらゆる形で滅して、そしてまたもや我といういう人類の現れる不思議。】

【自閉症の生徒。女の子から「わらってがらん」とか「・・・ちゃん、女の生理ってしっている」「私とデートしない」とかいって話しかけている。机に前かがみになってすわり、決して身をおこさない。太ってマラソンなどすると股ずれし、いつもどべになってしまう少年。この少年のおもいは何か。】

「エイドーラが人に近づいて来る。それは人によって姿を見られ、声を聞かれることによって、彼に将来を予示する」

【エルドラードという薬物のようなものか。ひとびとを襲う○○悪のその元のものか。】

 ぼくは、ぼくの消滅した2040年の家がどんなだろうと、木箱の中に隠れていた。ぼくは、カーテンの蔭に隠れてカーテンを模写して身体を励起させるように、鏡が誰もいない部屋を呑みこんでいるように、2040年を模写しきった。

【幼児がカーテンに隠れ、くるっと身をその中に入れてしまう動き。二千四十年、私が既に滅してしまっている年には、一体どうなっているだろう。私の占めた場所、発信した会話などは。この問いが「模写しきった」の解答だ。】

 この生体実験は、後遺症となった。 何もしていないのに、誰かに(もしかすると孫次郎に)追われていると感じ、出自と系譜の合図のほかに、ぼくは世からいなくなれる、という異様な配列を知った。

【異様な配列があるのは、純粋ではなく、自殺、自死のような後遺症は人間が存するということが必要十分となり、やはり犬にも出自・系譜は純粋に(はたらき)男は死にたくないと言って「業縁のもよおさば、いかなるふるまいもすべし」「一定すみかぞかし」と結ばざるを得なかった。】

のぞきあなは、賭博者を麻痺させる流出の瞬間(目)のように、部屋全体に見られるという魅惑だった。

【覗き穴、主と客、対と象と、その主体。覗き穴から見られるという犯罪を期待しての、のぞき見。】

 

「ふしぎに思ったのは、女が入浴しながらミカンやニギリメシを食べることだ。何回も見た。」

【元の文の主語による受身形は、行為の主を曖昧に、女の肉体を夢魔にでもくれてやる(もの)ばかりであるが故に、「おしゃべり」としてのミカンや、ニギリメシは、フシギ存在なのである。】

 (未分類の剥離像が人に降りかかる)

名のつけられていない固有名を固有名として定着させていきたいのである。】

 遠方と夜が出会い、身をまかせるようにとうながしかける犯行現場に(何事かが終って誰もが見過ごしたセピア色の予言の能力が壜詰標本のように威力を太らせている場所に)「野蛮・冬の砂糖」と感じられる雑多なもの、貿易の痕跡を陳列したショーウインドーの照明に照らしだされた顔面は、大きな迂回をする白色雑音となって通りかかった。

【柔らかいもち肌のような善的存在(赤ん坊)が悪を感じる、威力を思う、そのような犯行場所の事象がはがれたような純粋事実のセピアの能う限りの力が、響きと怒りを呼び起こす。白色の雑音とは云々。】

 フィヨルドの底に、沈鐘があらわれて来た。何も質問はしなかった。失くしたつり針のことも。

コップの中には、それぞれ異なる高さまで水が入っていた。 ぼくはなんども見に行った。何の変化もないのに、とりかえられてしまっている。

【だるまさんころんだのふしぎ。とりかえる、つまり、動くその瞬間をみないと何もわからん。】

 部屋には言ばを話す力が潜む。それはおしゃべりではない。身体を励起する固有名の意味の襲明なのだ。

 2月26日の陰毛を有つ被造物は、上になって交合っていた。藻掻き出て来た柔らかな象形に、部屋も彎曲し、誰かが話す。

【母は固有名とはなりえない。赤ん坊は固有の名に支えられそうして自身、固有の名をつくっていく。部屋という衣服。そして固有名化した夜のおどり。】

 名づけられるのを待って、だがそうならない象形は多い。

 テレビはぼくの顔面のようにずっと白色雑音だった。

 (仮死状態の女を横にして陰部を見ることの何とも言えぬ愉悦について供述する小平義雄は、南京の無重力の地で日本兵が数知れぬ中国人を斬首するのを同時になぞっていた)

【はっとするような意味ではないかも知れないが、手淫には、苦と楽が、つまり生と死が同居している。滝の白い騒音の無い水の中にサカサマに落下する自分を見て、射精する小平の愉悦は、まだみぬ母の産道がいかに狭いものであるか、あったか、を知らぬが故に斬首の瞬間に小平の眼がきりっと見開き、自分をいたぶる自分をみるという快楽にしたりたかったのだろう。そのような罪。】

0 Comments:

Post a Comment

<< Home