Saturday, April 02, 2011

碧痕59 ヒステリア

59 ヒステリア
 春の海ひねもすのたりのたり哉(蕪村)
 ルーペは霊長して、海辺で嗚咽する因幡の素兎に大国主命が話しかける超声と光と悠久とが届く。春の日に寄せては返す海の、そのスロー・モーションの極としての静止画像は、その感光が打ち消した奥深さを孕んでいるが、虚構の気配を消せないままに寄せては返す海は、法則的にも歴史的にもいつまでも到達・保存しそうにない邪悪な奥深さを剥き出しにする。すなわち、ヒステリア(放浪する子宮)である。
 虚構の気配を消して寄せては返す昨日、今日、明日に分節された日常性が、いつのまにか或いは忽如として、あてどなく、届かなくなる。昨日、今日、明日の平均化としての日常性が鎧う擬態は、化の(出現すると同時に潜伏することの)質料化であるが、この質料化した隠喩性はその気配を消している限りで法則的、歴史的到達・保存(平均化、提喩性)となって祟り返し(つまり、効果を示現し)、しかし前触れもなく、ずっとそうであったかのように、擬態が解けてしまう。擬態に面して、その気配が消せないのである。すなわち、化の、その隠喩性が気配を剥き出しにして、疚しさとなって潜伏していた奥深さに被曝して、光り出す。
 ヒステリア(放浪する起源)は、「神の小さな土地」に酷似している。埋蔵金や鉱脈は、未だ掘られていない「神の小さな土地」につねに移動してしまっている。このはてしなさは、紫の煙がエジプトの空に立ちのぼる如く、孫悟空が暴れる如く、海はひねもす寄せては返す。

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