碧痕70 もの凄い疾走
70 もの凄い疾走
平安の盆地を見下ろす山から、その市井の、蛍のように密に疎に分布する野生の灯に面して、放哉を襲う模写発作を、放哉が「無心」と呼んでいるのは、つまり、隠沼に面して、その忽光を惚恍を以て発作的に模写したということなのである。それは、名高い観光地に解消した地形とともしびではなく、優越したカーストとしての針一本が影に変脱する逆転・反転の淋しい蛍光(放電)でもなく、極端に私的な絶景に面して仏ヶ浦に出てしまっているのである。
しかし放哉は、現実を脅かす仏ヶ浦を報告しようと藻掻くよりは、カーストを鎧った現実が仏(ほどけ)る化の忽光の、その隠喩として、この世のものが仏のようにつきまとう影に変脱する放電を観測する。しかしまた、それは、写真を分節しているカーストに(影の如く、しかも超然と)力添えするために傍らに添えられた説明にも見える。つまり、剥離像(エイドーラ)と、それを超然と修飾する強調としての影とを兼ねるのである。
朝から十銭置いてある留守の長火鉢(放哉)
1 誰もいない部屋で、十銭硬貨が目を見ひらいている。覗き穴そのものである誰もいない部屋が、その絶頂に置いて盗まれている、この被盗聴状態は、こんなところにというような隠沼の気に「十銭」が被曝しているのである。
2 「十銭」が落とす影としてつきまとう誰もいない部屋が俄然実体を鎧って、「十銭」が誰もいない部屋の影に変脱する。俄然その逆行。
3 津波で流された家が橋の上に乗り上げていた(12日午前7時5分、宮城県気仙沼市、本社ヘリから、葛谷晋吾撮影)
地震で倒壊した精密機械製造会社(12日早朝、福島県須賀川市、村山惠二撮影)
20年が経過したスリーマイル島(1999年、ペンシルベニア)
フランスでぶどう栽培を学ぶ高野正誠(左)と土屋助次郎(或る写真の傍らに添えられた説明)
年号を欠くものの、古い写真の傍らに添えられたこの影の、その覗き穴を通して写真に超然と息がかかる。この影を通して剥離像は一気に受肉するが、その、距離を取り消す絶頂に於いて重力が失効する。こうして場所の場所が浮上してあてどなくなるのは、つまり、寂漠に被曝するのである。それは、この留学生が跡形もなくなるのではなく、その留学生が占める場所が宙に浮いて、光り出すのであり、影のように留学生を補強する場所から逃げ遅れるのではなく、もの凄い疾走に連れ戻されるのである。
平安の盆地を見下ろす山から、その市井の、蛍のように密に疎に分布する野生の灯に面して、放哉を襲う模写発作を、放哉が「無心」と呼んでいるのは、つまり、隠沼に面して、その忽光を惚恍を以て発作的に模写したということなのである。それは、名高い観光地に解消した地形とともしびではなく、優越したカーストとしての針一本が影に変脱する逆転・反転の淋しい蛍光(放電)でもなく、極端に私的な絶景に面して仏ヶ浦に出てしまっているのである。
しかし放哉は、現実を脅かす仏ヶ浦を報告しようと藻掻くよりは、カーストを鎧った現実が仏(ほどけ)る化の忽光の、その隠喩として、この世のものが仏のようにつきまとう影に変脱する放電を観測する。しかしまた、それは、写真を分節しているカーストに(影の如く、しかも超然と)力添えするために傍らに添えられた説明にも見える。つまり、剥離像(エイドーラ)と、それを超然と修飾する強調としての影とを兼ねるのである。
朝から十銭置いてある留守の長火鉢(放哉)
1 誰もいない部屋で、十銭硬貨が目を見ひらいている。覗き穴そのものである誰もいない部屋が、その絶頂に置いて盗まれている、この被盗聴状態は、こんなところにというような隠沼の気に「十銭」が被曝しているのである。
2 「十銭」が落とす影としてつきまとう誰もいない部屋が俄然実体を鎧って、「十銭」が誰もいない部屋の影に変脱する。俄然その逆行。
3 津波で流された家が橋の上に乗り上げていた(12日午前7時5分、宮城県気仙沼市、本社ヘリから、葛谷晋吾撮影)
地震で倒壊した精密機械製造会社(12日早朝、福島県須賀川市、村山惠二撮影)
20年が経過したスリーマイル島(1999年、ペンシルベニア)
フランスでぶどう栽培を学ぶ高野正誠(左)と土屋助次郎(或る写真の傍らに添えられた説明)
年号を欠くものの、古い写真の傍らに添えられたこの影の、その覗き穴を通して写真に超然と息がかかる。この影を通して剥離像は一気に受肉するが、その、距離を取り消す絶頂に於いて重力が失効する。こうして場所の場所が浮上してあてどなくなるのは、つまり、寂漠に被曝するのである。それは、この留学生が跡形もなくなるのではなく、その留学生が占める場所が宙に浮いて、光り出すのであり、影のように留学生を補強する場所から逃げ遅れるのではなく、もの凄い疾走に連れ戻されるのである。


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