碧痕72 スリルの放射
72 スリルの放射
藁すべ一本落ちてる(尾崎放哉)
拾い物は、影に変脱することを通して、鬼の落とし物に変わる。それは、導く。
放哉が拾い上げる片隅は、大視症に於いて拡大され、救い取られるのであるが、影に変脱すること、その逆転・反転を通して、目がみひらくのである。
霜朝犬がくわえて来たもの(同)
所在不明の手紙がこっそり戻って来て居る(同)
落葉ふんで来る音が犬であった(同)
和尚の不自由な足が夜中の廊下で起きとる(同)
暗がり砂糖をなめたわが舌のよろこび(同)
小さな人形に小さなかげがある(同)
何かはいっていそうな壷だ(同)
箱の中のものを忘れていた(同)
いつ折ったのか本のページ(同)
こうした細部の発見、片隅の救済は、畳の目に零れたもの、潜伏したものの浮上が強迫的に、つまり、催眠術にかかっているように、導かれて続く。
くらまぎれから犬が出て来た(同)
落葉掃いて居る犬に嗅がれる(同)
犬に覗かれた低い窓である(同)
というように、何げなく振り返るかの如く導く。意味深くないものはない。
海が凪いでいる村の呉服屋(同)
そろはぬ火ばしの儘で六月になった(同)
土塀に突っかい棒をしてオルガンひいている学校(同)
いつもしめてある門の前を通る(同)
洗ったテーブルかけのうすいしみ跡(同)
硯の水がちんまり澄んで居た(同)
山の匂い嗅ぎ行く犬の如く(同)実は、犬は山に嗅がれていて、細部や片隅を追究するようでいて、実は、繋がれてはいないがどこからともなく犬がつきまとう如く、細部や片隅に嗅がれ、覗かれ、追跡されているのである。風の落ちぎわの犬の顔(同)は、そのままその実体が影に変脱して、その眼耳鼻舌は眼耳鼻舌以上のものである。その鼻口部は鼻口部以上のスリルを放射している。
妻の下駄に足を入れて見る(同)
貫く電流は、こうしたスリルの放射である。同じようにして、身体を居場所に入れて見る。
太い桐の幹だけ見えて待たされて居る(同)
そのようにして、導かれて居るのである。
藁すべ一本落ちてる(尾崎放哉)
拾い物は、影に変脱することを通して、鬼の落とし物に変わる。それは、導く。
放哉が拾い上げる片隅は、大視症に於いて拡大され、救い取られるのであるが、影に変脱すること、その逆転・反転を通して、目がみひらくのである。
霜朝犬がくわえて来たもの(同)
所在不明の手紙がこっそり戻って来て居る(同)
落葉ふんで来る音が犬であった(同)
和尚の不自由な足が夜中の廊下で起きとる(同)
暗がり砂糖をなめたわが舌のよろこび(同)
小さな人形に小さなかげがある(同)
何かはいっていそうな壷だ(同)
箱の中のものを忘れていた(同)
いつ折ったのか本のページ(同)
こうした細部の発見、片隅の救済は、畳の目に零れたもの、潜伏したものの浮上が強迫的に、つまり、催眠術にかかっているように、導かれて続く。
くらまぎれから犬が出て来た(同)
落葉掃いて居る犬に嗅がれる(同)
犬に覗かれた低い窓である(同)
というように、何げなく振り返るかの如く導く。意味深くないものはない。
海が凪いでいる村の呉服屋(同)
そろはぬ火ばしの儘で六月になった(同)
土塀に突っかい棒をしてオルガンひいている学校(同)
いつもしめてある門の前を通る(同)
洗ったテーブルかけのうすいしみ跡(同)
硯の水がちんまり澄んで居た(同)
山の匂い嗅ぎ行く犬の如く(同)実は、犬は山に嗅がれていて、細部や片隅を追究するようでいて、実は、繋がれてはいないがどこからともなく犬がつきまとう如く、細部や片隅に嗅がれ、覗かれ、追跡されているのである。風の落ちぎわの犬の顔(同)は、そのままその実体が影に変脱して、その眼耳鼻舌は眼耳鼻舌以上のものである。その鼻口部は鼻口部以上のスリルを放射している。
妻の下駄に足を入れて見る(同)
貫く電流は、こうしたスリルの放射である。同じようにして、身体を居場所に入れて見る。
太い桐の幹だけ見えて待たされて居る(同)
そのようにして、導かれて居るのである。


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