Saturday, June 09, 2012

碧痕193 禁止の転移

193 禁止の転移
 幕末の症状としての井伊直弼の決断(安政の仮条約)が縁生するための地は、症状というものの意味であると同時に形式であるように隠喩的に潜むのではなく、地として決断を模写して換喩的に潜む。安政の大獄が刎ねた生首は、この換喩的に潜む勢力(決して一味ではない勢力)を代表する写真のようなもので、安政の大獄は写真を刎ねるような呪術であり、決断を浮かび上がらせる地を突き崩すどころか寧ろ明々地にする。その生首は、直弼の思考の、器官の延長であり、決断をくっきり写し出す。
 鎖国の例外は今に始まったことではなく、例外が増えたところで暫定的調整の範囲に留まる。しかし、恫喝することには馴れていても恫喝されたことのない幕府は狼狽して、禁止が破られたことの埋め合わせとでもいうように、疚しさとなって潜伏した禁止が他へ、地へ(頭を掻き面に皺を寄せるように)転移する。開国の禁止ではなく、禁止だけが地へ転移する、それが安政の大獄である。
 身を隠していたいのに隠れなく魘しかける気配に狼狽して、大地震と大津波の傷痕をカメラで撮影することや言葉にすることを憚る、というより寧ろ忌避する。どうして疚しくなるのか。
 この、何よりも身近に薄気味悪く迫っているのに不可触の気配と、触れんばかりにすぐそばまで来ている猛威との間にあって、器官の延長であることの禁止が器官を延長することの禁止に転移してしまうのである。

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