碧痕208 安堵の、その蔭
208 安堵の、その蔭
そのビデオを見たものは、時限付きで無差別に、次元を踏み越えて貞子に襲われる。妖虎の点睛に対応するものは、ビデオを見ることである。見られたがっている貞子は、ビデオモニターに通路を見いだして受肉して乗り出して来る。黒髪で隠された白眼が点睛されて一旦剥き出しになるや、その兇眼から迸る雷電はアースされない。叫びを以て模写された電撃に、その叫びはそのまま凝固する。
貞子が獲物を見失うかに見えるのは、身代わりをつくられた場合であるが、一旦貞子を見ることで致命的に、身を隠していたいのに隠れなくなる。
貞子は父親が生き延びるために殺された身代わりであるから、身代わりをつくらないものを取り殺すのは錯誤に見えるが、それは実は、身代わりに生き延びようと足掻くのであり、身を隠していたいのに隠れなくする貞子は、身代わりに殺された貞子ではなく、この、身代わりに生き延びようとする貞子である。この貞子は、身代わりをつくって生き延びるものの安堵の、その蔭(うしろめたさ)である。
つまり、「リング」(中田秀夫)そのものが人面瘡で、その腹話は神学のようなものである。井戸の底へ遡って貞子の死体を探すことを通して、身代わりに殺されることと身代わりに生き延びることの区別、身代わりに生き延びる安堵と蔭の区別がつかなくなる、そうした反転、収斂、二重性に出てしまう。


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