碧痕229 曙光の侵入
229 曙光の侵入
一方に於いては、悪夢に面してなぶられることこそが微かな曙光の如く倒錯するのに対して、他方に於いては、悪夢の再来が約束されていることが希望の如く振る舞う。(碧痕2 曙光(二つの倒錯)、曙光の侵入)
ミホの「ギモン」のカノンが果てしもないのは、隠しごとが「神の小さな土地」に移動しているからであり、「私」が気を失っている間に悪夢が過ぎ去ってはいない証拠に、「まあ、おくさん、いいわね、だんなさまとごいっしょで、あたしうらやましい」と食料品店の女に呼び出されれば、俄然、若妻に引っぱられてしぶしぶついて来た青年の書生気分のぬけない大きなからだつきに不随意に変わり、「あなたがいくらあたしに忠実そうにみせかけてもあたしは信ずることができません。あなたはとてもずるい」とミホに言われれば、瞬時に、顔がずるくて、どす黒い醜さに覆われる。「外は家の立てこみも、人々の行き交いも、そして音も空気もにおいも電灯も、いざないの捕虫網をうしろ手に隠して、つかまえるためにしのび寄ってくる」というような包囲の気配になぶられて、覗き穴が取り返せない。(「死の棘」第三章 崖のふち)
それどころか、たどたどしく流れる電光ニュースが災害や事故、殺人の発生を黙々と伝えているが、不意にしかも一回限り、しかも誰もが見落として自分だけが読むように、世界の終わりの予告が挿入されるのではないかという思いにかられる。
しかし、こうした狙撃は、出来事ではなく被曝であり、予告を追い越して世界が延長していないために誰にもきこえない、この叫びは、曙光の侵入なのである。


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