碧痕232 葛藤の分割、葛藤の模写
232 葛藤の分割、葛藤の模写
心中の死体が出そうもない場所を捜して二人して(何か見当外れに)うろつくように、二人して(何か見当外れに)指を詰めるための鉈を買いに商店街に出掛ける、といった「日々の例」(「死の棘」第六章)の、その、いつ果てるとも知れない格闘が甘えであるだけに何か見当外れなのであるが、地上のものであることの(「私」や寿命を鎧うことの)取り返しのつかなさを、知られている慣例や代案や代案の研究によってすらも埋め合わせようとして果たして補償の術がないのである。考えつく代案はどれも後退するかに見える。額の烙印や刺青のように、一旦ついてしまった穢れは頭上に澱んで水に流すことができない。
魂は生まれ変わろうとするかに見えるが、魂は生まれ変わるのではなく、取り返しのつかなさの、そのうらめしさが、失われることを以てしか保存されない魂の写真なのであり、安らいの場所へ駆り立てる重力としての魂と重なり合う。生まれ変わることが、安らいの場所なのである。「魂の移住」の分かり易さは、こうした魂の、分かりにくい葛藤の分割である。
夫と「あいつ」の密通の、その穢れを取り消そうとして、出来事が取り消せないことの埋め合わせとして「あいつ」を成敗、抹殺する、逆に、自殺するなり出家するなりして自らを葬る、せめて夫を被監視状態におく、或いは、指を詰めさせてもう二度と裏切らない誓いの印をつける、家族して遠くへ逃れる、結局は、詰問の責めと白状の責め苦、死ぬ死ぬなの寸止めのつがい形成に戻る、「あいつ」には他にも男がいてしかもそれは夫の文学仲間であることの、その情けなさをひにくるのは自らを卑しめるようなもので、果たして次々と出て来る隠しごとの白状で不義と屈辱の埋め合わせになるはずもなく、赦すために、瞋恚を解くために白状を強いるのではなく、尋問の折檻はどうしようもない取り返しのつかなさに面してその取り返しのつかなさをもどかしげになぞってしまう。いくら腕を振り上げても水の中のように力が伝わらない。
被誘惑状態に打ち消されて疚しさとなって潜伏した「それ」は、「あいつ」に感染・保存されていて、そのために「あいつ」は監視カメラや盗聴器を内蔵して自在に出没し、胸ガ締メツケラレテ息ガデキナクナルホドスグ近クニシカモ何処ニモナク、疼く。ミホを襲う発作は、密通を赦すことと赦さないこととが絶えず入れ替わってもつれ合う葛藤が分割されないために解けない(例えば、こどもたちは赦さない方を、ミホは赦す方をそれぞれ分担して解かれているのではない)その葛藤を、右に左にごろごろ転がることを以て模写するようなものであり、また、「あいつ」と、似テイナイタメニオソレオノノキ、似テイルタメニ燃エ立ツ、のである。


0 Comments:
Post a Comment
<< Home