碧痕241 迫る数式の気配
241 迫る数式の気配
症状が生まれ変わるのではない。博士の記憶障害の反復は単一にして執拗であり、それは人面瘡のようでもあるが、むしろ反復する間にずれの逆転の誘発を仕掛ける(或いは入れ替わろうとする)力業のようでもある。この力業の気配は、空気の成分を組成し、臨在し、迫る能面の気配に溶解する。
最も秘密な告白とは何か。殺人なのか、密通なのか。それは、入れ替わる苦痛(或いは愉悦)を悪徳として模写していないか。博士の記憶が80分しかもたないことは、悪徳となって入れ替わることの強迫的なエラーにも見えるが、しかも余計な記憶を削いで数式となって入れ替わろうとする誘惑である。悪徳も数式も入れ替わるための形式なのである。博士の記憶障害では、数式が出来事の目的になり、しかも、出来事として数式を取り出さずにはいられない。
博士に迫る数式の気配は、陰謀や試みの気配、身代わりであることの気配へ地続いている。


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