Sunday, December 09, 2012

碧痕254 最終状態の断面

254 最終状態の断面  「墨東綺譚」(荷風)が、玉ノ井の狐狸の気配に被曝して限界をおかされたとしても、それは零落ではなく、細部をズーム・アップしていく遡上が雷鳴と夕立に「手引き」されて、お雪の顔の靨の如く玉ノ井は「やってやがる」のである。  雷門から出るバスの灯が照らし出している行き先であった、この「不可思議な激励」を孕んだ玉ノ井の、その、溝蚊の湧く陋巷(擬似奥行としての「ラビリント」)は銀河の影に森然と抱き上げられ、その、細部を辿るほどに別天地(何処デモナイ意味)に半解脱する片隅で、あちこち突き当たって来た風が暖簾の紐につけた鈴を鳴らす・・・お雪が何か言いかけたが戸を叩く音と人の声に黙ってそれきりになる・・・そのような漠として逃れ易い何かが無量になごり惜しく迫るのは、窃視を襲う、もう一つの発作である。  「墨東綺譚」の窃視は、身を窶してお忍びする二重人格的優越ではなく、こんなにも近いのに窃視に曝された次元が縮んでしまっていて(実は、隠沼が迫って、打ち寄せるしき波が忽如としてそうであるように何かの最終状態、何か測量不能の断崖に出ているのに)実体が剥がれるように、しかし断片ではなく、断面が覗くのである。

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