碧痕255 最終状態
255 最終状態
博士が見る夢では、或る女体が「博士が愛した数式」の姿をして顕在化し、その数式の潜在する意味でもあり、その或る女体の潜伏はその数式の場所(・目的)でもある。或る女体は個体ではない。
「墨東綺譚」の場合、或る女体が漠として予期している(しかし思いがけない)数式に相当するもの、それが、或る夏にだけ姿を現わした「玉ノ井」である。いつの間にか跡形もなく消え失せてただ水たまりだけが愚鈍に残されていそうな「玉ノ井」であって、お雪なのではない。お雪の占める場所が「玉ノ井」なのではなく、或る女体が「玉ノ井」の占める場所なのであり、その擬似奥行としての「ラビリント」が、或る女体の最終状態である「玉ノ井」の、その断面である。寿命の解けた「玉ノ井」の、極端に短い寿命を鎧った断面である。「玉ノ井」は出来事の背景ではなく、追い詰められた出来事の最終状態なのである。
「私」は、この、或る女体の最終状態としての「玉ノ井」に導かれ、お雪は、それが何か個体に命中しないことの暗示に留まる。断面としての次元の縮みにお雪は属するのであり、写真撮影して写っていないのはお雪なのではなく、「玉ノ井」なのである。


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