碧痕265 器官の延長の禁止の効果
265 器官の延長の禁止の効果
荷風を襲う「明鏡」は、物を程度として鮮明にするのではなく、物のその具体の媒体性を剥き出しにして自由、孤独が解ける最終状態であるが、器官の延長であることを禁止することの効果から自由、孤独が脅かされて中間突破し難い擬似奥行の入口になってしまう。
器官の延長であることや分身の禁止は、ゆき子(「浮雲」林芙美子)の独身性の場合のように、他の誰かの身体に密通が顕れたり、ここにいることが他の誰かに降りかかっているみたいに嘘じみて祟り返すが、荷風の独身性も免れてはいない。呵責の祟る症状は、ゆき子は「竹矢来」や屋久島の騒々しい雨に包囲されて磔状態あるいは診察を受ける患者状態であり、荷風も蓄音機や蒸し暑い夏の夜の騒々しいラジオを通して器官を延長して来ている何か漠としたものに駆り立てられている被追跡状態なのである。
類が種の最終状態であれば類が種の意味であるように、この、何か漠としたものは、希望や運命や業の意味である。それは、器官を延長して来ている。


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