Wednesday, January 23, 2013

碧痕269 旅愁、空腹

269 旅愁、空腹 一、拾参円の内より 茶ブ台       壱円。 箱火鉢       壱円。 シクラメン一鉢   参拾五銭。 飯茶わん      弐拾銭。  二個。 吸物わん      参拾銭。  二個。 ワサビヅケ     五銭。 沢庵        拾壱銭。 箸         五銭。   五人前。 茶呑道具 盆つき  壱円拾銭。 桃太郎の蓋物    拾五銭。 皿         弐拾銭。  二枚。 間代日割り     六円。   (三畳九円) 火箸        拾銭。 餅網        拾弐銭。 ニュームのつゆ杓子 拾銭。 御飯杓子      参銭。 鼻紙一束      弐拾銭。 肌色美顔水     弐拾八銭。 御神酒       弐拾五銭。 一合。 引越し蕎麦     参拾銭。  階下へ。 一、壱円拾六銭 残金  これは、ボロカスであることの記録ではない。つんと鼻の高い若くて美しい時ちゃんと新生活を始めたこの夜、二人はシクラメンのいやな匂いに(部屋の外に出せばよいものを)終夜なやまされている。コレハ何カ違ウ思いが纏わりついていて、言葉にはならない認識のようなものだったということなのか。  「放浪記」(林芙美子)は、個体も擬態もおかして遡上するもう一つの「魚服」の記である。「私」は男になって時ちゃんを盗み見し、金魚になっておどける。それを記念して、貨幣の模写能が、平凡な生活品に化けておどけている。このスナップ写真に面して「私」が一気に収縮すると同時に拡張する。大航海時代的に荒野を拡張し洞窟化するレオナルド・ダ・ヴィンチが、幼い頃に引き離された母カテリーナの葬儀の際の、その出費の明細をもの静かな素振りでしかも震いつくように記録しないではいられなかった空腹が、口から手が出るまでに器官を延長して、位置異常を起こして、即興的に歪んでいる。  旅愁とは何か。空腹である。

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