Saturday, July 13, 2013

碧騒326 寄生的な失踪

326 寄生的な失踪  詐欺は、分業の美徳を裏切って贋金のように信用を破壊して、反分業的な富の再分配すなわち悪徳であり、器官の延長としての分業を取り消さないにしても、食うものと食われるものとの分業に単純化することであり、分業の組織としての秩序に対する非忠誠である。  「TONO-BUNGAY」(H.G.Wells)と呼ばれるインチキ強壮剤の生産、販売は、他の誰かの器官の延長の振りをして、供給と消費の関係を空転させるどころか、逆転させてしまう。食いものにする勢力と食いものにされる勢力とに分業を単純化して、複雑に連関した資本主義的分業の秩序に組み込まれることに抗うが、贋金のように、分業の網目に寄生している限りでの反抗なのである。  荘園的支配と被支配の分業や、下級階層に蔓延する最後の審判の猛威と被監視の分業からの脱出は、そうした社会から失踪すれば果たされるのであるが、植民地へ失踪して本国の秩序と身分から解放はされても単に階級が逆転するだけというのであれば、本国の秩序の延長に寄生しているに過ぎない。詐欺のような反抗も、寄生的な失踪である。  自叙伝としてであっても「TONO-BUNGAY 」を物語ることは、インチキ強壮剤(TONO-BUNGAY )を売りさばく詐欺の、寄生的な失踪の再発である。嘘をつく情熱、しかも虚構の気配を消す野心を以て信者を食いものにするのである。「TONO-BUNGAY 」を物語る私の成長の各段階は、個体の胚発生が系統発生的な様相を圧縮して経過するように、イギリスの分業の発展の諸相を圧縮して閲する。そして、どの段階でも他の誰かの器官の延長としての居場所から異端的に逸脱、失踪するのであるが、分業の網目の何処かに覗き穴のように裂目がみひらいて寄生的に留まり、そこにいてそこにいない二重の輪郭のために全身の皮膚が性感帯として励起されている。「TONO-BUNGAY 」を物語ることは、こうした性感帯に励まされているのである。

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