Monday, July 22, 2013

碧騒329 二重性の崩壊(もの凄い土砂降り)

329 二重性の崩壊(もの凄い土砂降り)  ポンダレヴォー一族の危機に面して、それを回避すべく、ケイバーン完全電灯線条の素材としてのカナディウム調達を目指して企てられたモーデット島への遠征、魘されるような悪い天候と水平線へだらだら平板に続く時間と悪臭の航海が、汽船ではなく萎んだような帆船しか手配できなかったことは、すでにして不吉であるが、「井戸の中へ落ちた動物がおくるにちがいないような、異様な、はりつめた生活」へ降りていく。(「TONO-BUNGAY」H.G.Wells)  放射能をふくみ、夜はかすかに青い燐光を放つ死の(忽ち縮みあがり、触れば炎症をおこして火ぶくれのできそうな)泥深い海岸に盛り上がっている岩屑の山、それがクワップ鉱床の露出部であるが、自然状態では安定した諸元素の、ふしぎな衰退や腐朽、崩壊、癌腫のようにものを破壊しながら増殖していく、元素の動揺、撹乱の状態、整然とした状態にあるものが揺れ動き、はい出していく奇妙な物質の病気、こうした変脱は、空中飛行の症状となって出現した(従って潜伏した)命令が別の症状に転生することにどこか似ているが、何か決定的に違う。寄生的な反分業の皮膚の輪郭の二重性ではなく、追い詰められた悪徳(二重性)の崩壊の予感がクワップの山の潜在内容(命令)であるために、このクワップの山は暗黒大陸から響いて来ているのである。しかも顕在的には、崩壊を食い止めるものとしての期待がかかっているために、「井戸に落ちた動物」の混乱がふくれ上がる。  船底に積んだクワップが出す放射線に被曝して密輸船はヴェルデ岬沖でばらばらに壊れて海中に沈むが、この船体は皮膚の輪郭の二重性そのものであるから、ジョージ・ポンタレヴォーの姿は隠れなくなってしまう。その予兆はすでに襲っている。「井戸の底」に落ちて異様に張り詰めたジョージ・ポンタレヴォーは単純に(虎が動くものに飛びかかるように)人を殺め、しかし何度も死体を見に戻らずにはいられなくなって、その黒い死体の輪郭が二重ではないこと(見えること)を漠としてつきとめている。もの凄い土砂降りが死体を隠れなくしたのである。

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