Wednesday, August 21, 2013

碧騒339 半開きのヤーウェ

339 半開きのヤーウェ  「苦海浄土―わが水俣病」の石牟礼は、こう述懐している。「子供の入院した病院に、『奇病』の患者の病棟があると言われていました。ある日お見舞いに訪ねてみたら、半開きになった扉から寝ていた男性が見えた。痙攣が収まっていたのでしょう。胸の上に置いたマンガ本のようなものを立て、顔や体を隠そうとする。」石牟礼はその光景が忘れられなくなる。「その方の意志に反することをした。存在を汚し、恥ずかしいことをした」と。  「飽きるまで観察してやる」と、酷薄な応答が対位する。しかしどちらも、ヤーウェに呼び出しを食らって、はにかんでいることに変わりはなく、不覚ニモはにかんだことに狼狽して、この転移発作が応答の方に顕れるのであるが、それは「存在ヲ汚ス」を反語にする。石牟礼がその光景をいつまでも忘れられない粘着性は、扉が半開きのままに呼び出しを食らい続け、見てはならないものを見てしまったのかずっと疑わしいからである。  見てはならないものを見てしまい「存在ヲ汚ス」ことには「存在ヲ呼ビ醒マス」ことが潜んでいる。黄泉のイザナミの形に湧き集く蛆や産屋のトヨタマビメの匍いのたうつ海底の族のおぞましい形や、顔面半分を覆うケロイドを覗き見ることなどに変奏され、転生する、この半開きのヤーウェは、コンナノガオナカニイタノカというように五本に分岐した指をぴらぴらさせて食い破って出て来る。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home