碧空505 媒質変化
505 媒質変化
「It」が大蜘蛛の姿をとっているのは、捕食されること、媒体であること、生贄であることといった漠として「我」を自明ではなくして脅かすものの、その抽象のunlearn である。更には、それに、母体などというものが付け加わる。
早春のムクドリやホシムクドリやカラスが大群をなして降りて来て目白押しに沸騰する暗騒音は、身体に萌すふくらみのために輪郭が揺すぶられているベヴァリーだけを射竦めるのではない。ベヴァリーを通して放出されているフェロモンの母体は、ビル・デンブロウとその仲間を引き寄せる地下の暗騒音の巣であるように、ゴードン、クリス、テディ、バーン(「Stand by Me」S.King )を引き寄せて延びる鉄道、炎天の夏を貫いて、死体がありそうな遠方と夜の出会う場所へと誘う消失点のある奥行も、何かフェロモンのようなものの母体である。
ゴードンが川に架かった長いトレッスル橋の半ばで、レールを通して、汽車がまだ視界の外であるのにもう逃れられないようなすぐそばまで接近して来ているかのような震動に隠れなくなったとき、明晰に分かったのはそのことだけではない。焼けつくレールは突如として掌中でくねる「金属の蛇」であり、その含蓄は、内臓は溶け出しているのに筋肉は硬直して寸分も動けない宙吊り状態である。身に降りかかっていることがスロー・モーションを羽織ったテレビの画面であるかのように、媒質が取り替えられてしまっていて隠れないのである。
これは、死体探しの冒険の発端で、鉄道の土手に上がって振り返って見た町の、その全容を包んでいた媒質変化でもある。町の境にある広大なゴミ捨て場に、暖炉を汽車が貫通しているマグリットの「Transfixed Time 」がかかる気配はまた、その変奏である。つまり、冒険の発端でも、中途でも、終わりでも、世界は終わっていて隠れないことが貫通しているのである。


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