Sunday, January 04, 2015

碧空506 媒質変化の転写

506 媒質変化の転写  大蜘蛛の糸に宙吊りになっている赤毛のオードラも赤毛のベヴァリーを射竦める鳥の大群も、誰でもなくなる奥行に踏み込んでいく冒険、神経症のように矛盾した命令を孕んで戦く葛藤である。オードラを抱き竦める緊張病(catatonia )は、世界が終わっているために身じろぎもできない断崖に出ているのであるが、これは、覗き穴が盗まれてしまっていることの媒質変化がcatatonia として身体に転写されているのである。  ゴードンとその仲間が(10億光年も器官を延長した線路の消失点から新しい天体のように)レイ・ブラワーの死体を見つけた時、「線路の両側の森が、たった今わたしたちの存在に気づき、批評を始めたというように、ざわざわ大きくざわめきだした。」(「Stand by Me」S.King )しかしこの、気配づく魑魅は、そのとき雨が降り出したことが図々しくも「感傷的虚偽」を以て吹き替えられているのではなく、隠れなさに抱き竦められた媒質変化の転写なのである。  現世のうちに旅人が猿や蝙蝠や馬に変形、転生してしまう生埋めの、その、隠れたままになってしまう気配と世界の終わりの隠れなさの気配との区別がおかされた、そうした奥地(媒質変化)を転写して「高野聖」が物語られるように、「道成寺」の異本の若僧は、めらめら増幅する大蛇の追跡に誘導されて身を潜めた鐘の中で、幾重にも巻きつかれ抱き竦められる緊張と溶解の、その媒質変化を転写して、一滴の露に身を変えるのである。  ずっと後にゴードンは、あの消失点へ遡上して、レイ・ブラワーがブルーベリー狩りに持っていっていたはずのブリキのバケツを草叢から探し出したいという思いに駆られる。ウラニウムが放射線を出し尽して鉛に変脱するようにではなく、むしろ逆に、あの消失点でレイ・ブラワーの死体がブリキのバケツに変脱して光り出しているのがゴードンには明晰に分かるのである。

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