Tuesday, December 01, 2015

碧空660 2015,赤茶けた禿頭を掻く

660 2015,赤茶けた禿頭を掻く  戦後50年余りもしたある日、徳正の右足が突然膨れだし、親指の先から絶え間なく滴る水を、夜になると傷病兵が飲みにやって来る・・・(「水滴」目取真俊)。洞窟(ガマ)からガマへ敗走するなか、艦砲射撃で被弾した仲間にやる水をつい我慢しきれずに飲んでしまった記憶が、疚しさとなって潜伏していた記憶が、解かれなければならない問としての命令となって解の次元に這い上がって来たのである。これは金縛り状態であるが、希望の症状でもある。  8.6 被爆した女体が赤ちゃんを庇ったままの姿でめらめらする間もなく一瞬で燃え尽きた頭髪が成り果てたとでもいうように全質変化して頭部も胴体も四肢も黒々となっている。生きる命令が若々しく上り詰めて来たところで唇がめくれる間もなく炭化と猛威に抱き竦められたというふうだ。70年誰にも話さなかったこの閃光・熱線・炭化はその記憶にも追い及んで迫り、暗闇に逃れようとする記憶を照らし出して隠れなくし、炭化する。それは秘密であるのではなく、complete privacyに被曝していて、奇妙にも、思わず記憶の主は、赤茶けた禿頭を掻く。  これは転移発作であるが、夜になってやって来る傷病兵が徳正の右足の親指の先から滴る水を飲む図にも、狼狽からか、叫ぶのでも笑うのでも震えるのでもなく、大あくびするのでもなく、もしかすると、頭を掻く。

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