碧空736 オスカルの遍歴、オスカルの瘤
736 オスカルの遍歴、オスカルの瘤
オスカルは、しょっちゅう「ブリキの太鼓」(G.Grass )を鳴らしまくって前進するかの如くであるが、一歩も足を踏み出していない。穴のなかに身を隠して小さく小さく縮んだままに極端に自らをズーム・アップするオスカルの、この強迫的な鼓舞は、オスカルにいつの間にかできた奇形嚢腫のようにオスカル一体分を孕んだ瘤がオスカルに成ろうとする祈祷なのである。オスカルは、この瘤が満ち欠ける祈祷に応じて振動するが、すなわち、瘤が満潮になればオスカルは霊的になって法則と歴史の圏外に失踪し、瘤が退潮になればオスカルはこの世のものに進化(零落)するが、おおむね、救出を待つ症状なのである。つまり、問(「郷愁」)としての瘤がその解としてオスカルではなく瘤(導く魂)のまま出てしまう金縛り状態、それがオスカルの遍歴である。
ところで、オスカルと瘤の関係は相似の全体と部分の関係であるから「自殺者」と「独身者」が対応しているが、もう一人のハンスとハンスが対応しているのは瘤の満潮と瘤の退潮である。ハンスは屋根裏部屋そのものとなって失踪したり、屋根裏部屋を占めたりする。失踪する限りでもう一人のハンス(の忽光)を発見するが、それは法則的、歴史的発見ではなく、穴のなかに身を隠して極小にまで縮んでいるのに隠れない、その隠れなさである。屋根裏部屋そのものとなって失踪するハンスはもう一人のハンスと解離しない、つまり、ゴーストがかかるのであるが、その次元減衰した断面が、オスカル一体分を孕んだオスカルの瘤である。
屋根裏部屋に潜り込んだハンスがもう一人のハンスを発見するように、スカートの中に潜り込んだオスカルは「ポーランド人の国」そのものとなって隠れない。その次元減衰した断面である、オスカル一体分を孕んだオスカルの瘤を写真撮影することは、超絶技巧である。というのも、メンソレータムの「Little Nurse」を透視することになるからである。それは、「Little Nurse」が霊的形式になる瞬間であり、同じようにして、オスカルの潜りこんだ「ポーランド人の国」(スカートの中)としてハンスの屋根裏部屋を透視することはハンスの屋根裏部屋が霊的抽象になる瞬間移動である。


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