碧空774 黒法師の兜あるいは月光
774 黒法師の兜あるいは月光
中世のドゥアール黒太子(黒法師)の兜(鉄仮面)をマッチョリ殿が眠っている間に(魔法にかかったように)被せられて剥がれなくなるのは、日常性に於いて(催眠術にかかったように)ペルソナが顔に張りついてしまい肉づきになる、その反ユーモアを透視する隠喩である。こうしたペルソナを潜在内容とする鉄仮面は、しかもJesus Christの復活のように、誰と入れ替わったのか分からなくする。それは、マッチョリ殿を常陸坊海尊の如くに異様な長寿、不滅にする技術である。
ヨーロッパの屋根裏部屋のようなトランシルベニヤの断崖上の城館に拠って支配するDracula 伯爵は、仏蘭西の国境のピニュロルの城塞の風下の隅塔に監禁されている鉄仮面が監視のために配置された人員を終生逆監禁してしまうように、世に躍り出るのではなく眠気の濃い城館に押し込められていることで、通りかかる旅行者を隠れなくするのであるが、蝙蝠にも蜥蜴にも狼にも蝿にも濃霧にも姿を変えるDracula の輪郭喪失は、誰も姿を見てはならない正体を知ってはならない話しかけてはならない禁止だらけの鉄仮面と、何か決定的に違うが何か致命的に似ている。
それは、Dracula が鏡に映るために輪郭を喪失して部屋に姿を変えるように、遍在する窃視を身につけるために誰と入れ替わったのか分からなくする。こうした救出を待つ症状の存在がまるで変装するために漏洩してしまうのは、常陸坊海尊のように、経験と伝聞が解離しなくなるからである。


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