Monday, July 18, 2016

碧空809 いつまでも1にならない金縛り状態

809 いつまでも1にならない金縛り状態  突然、春の匂いが漂って来て、「今すぐ何かを思い出さなければならないような気になって」あちこちし始め、頭は「誰かがぜんまいを巻いて機械を動かし始めた」かのようになる。何かを期待して出るが何か満たされないで戻る、柳田国男が問いかける「何をしようか」というような春愁であり、「起きなかったことを思い出す」かのようであるのも、突然漂って来たのは種の関心だからである。「自然と月と私の三位一体」は青年期のTolstoi を幸福にするのであるが、それは達成ではないし、満たされない(いつまでも1にならない)ことと区別がつかない。鏡を覗き込むように誰もいない部屋から部屋へ、その真っ暗な静寂へ顔を入れて、問いかけて来るのは鏡の中の怪物すなわち「百姓の顔貌」であるが、それは、いつまでも1にならない現実の金縛り状態である。現実は訂正し得るという余裕のようなものに庇護されて現実(或る何か)であるが、個別化と一般化が両極端に走ると訂正しようの余地もなく現実は硬直して金縛り状態になる。この硬直は、突然漂って来たのは目的の気配であるが、現実や「私」というものが実は手段であることが思い出せないのである。「今すぐ何かを思い出さなければならないような気になって」あちこちし始めるのも、カラマーゾフ兄弟の、あのアリョーシャがあちこち訪問して回らないではいられないように、喉元まで上り詰めて来ているものが何か度忘れの状態で、1にならないのである。

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