碧空812 盗まれていた顔
812 盗まれていた顔
チェコスロバキアとポーランドの国境で鬱然とJ.Genet を隠れなくする混乱と焦燥は、今すぐにも何かを盗まなくてはならないというように発作的に転移する。これは財の再分配を扱っているのではなく、ライ麦畑に潜む「貴婦人と一角獣」の、その震源が、ピンク色の花を咲かせた「鉄カブト虫」(A.Mohri )のような珍奇な昆虫にエネルギーを転位して、生殖と捕食、動物と植物、雄株と雌株の区別がおかされるのである。
Genet の越境の衝動は、Tolstoi の衝動でもある。しかし長大な叙述となって顕れたTolstoi の越境は、今すぐにも何かを(盗んでいたものを)返さなければならないというようであり、なかんずく百姓の顔さえも盗んでいたことを不随意に自白している人面瘡を(「百姓の顔貌」を)解消したいということなのである。


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