Friday, August 05, 2016

碧空821 特異点と発作(恐慌)

821 特異点と発作(恐慌)  (誰にも見られていないが、隠れない)原初の捕食の瞬間の、胃袋の位置異常は、ニコライ・ロストフに於いては、閲兵式の陶酔と眩暈、太陽のように光る皇帝に大群のなかの砂粒である「私」が認識されたと感じる感激に転位する。それは、天来の声や雷電がニコライの額を直撃するような懐疑と格闘で失神してもおかしくない。一方、ボリス・ドルベツコイに於いては、泥濘塗れの前衛ではなく命令系統の上層部に属することの興奮と葛藤となって目をみひらく。こうした感激と興奮、位置異常の差異は、原初の捕食の瞬間が分節された先で再発するのである。(「戦争と平和」Tolstoi)  乾燥の危機に面して、四散していたアメーバが集結して一つの生き物のようにのたうって移動を開始するように、八万の軍勢が九㌔にも渡る一枚の布のように動き出し、うねって波及する。同じようにして、時計の歯車などの細かな部品が連繋、連動して、意味深く噛み合い、いや継ぎ継ぎに代表することの効果が「大きな針の動き」、例えばアウステルリッツの戦いとなって経過する。部分や手段や個の姿をして先立つ諸要素を後続の諸要素が贖って、従って不断に(不完全に)起こる全体や目的や種を代表する変脱と位置異常が前後に解離して、歴史は虚構の気配を消して現れるのである。  虚構の気配の消せない特異点に面して発作の一つは、恐慌である。「これは本当にワーテルローの戦いなのだろうか」といった懐疑は、こうした特異点に出ている。ニコライの感激やボリスの興奮も、擬制の気配を消せないでみひらいた目に、痙攣あるいは硬直するのである。

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