Thursday, August 11, 2016

碧空825 思いがけない贅肉

825 思いがけない贅肉  物は障害であり、この障害との共存が道を決める。すなわち言葉を。言葉は物を迂回する。いつまでも1にならない種の関心を保護するのである。  壁か床下か天井裏か、ともかくどこかに黒い電話が埋め込まれていて、それがたまにエンマコオロギのような音を生んでいる。だが、耳に届くのは俄雨のような音だ。  一瞬あたりが砂嵐の画面のようになって、私のささやかな侵入に反応した建物の内部は、何年も気配を消していた奥行を呼び起こしている。  私はお茶の水から地下鉄に乗ったが、すぐ移動し始め、次から次へとストロボ写真のように車両を通り抜けていった。  「自転車に子どもを乗せたまま弁当屋に入っている間に、自転車が倒れてバスに轢かれてしまったんだって。即死だって。子どもって動くから。これって県道にあたらしくできた弁当屋だよね。事故のあったとこ見てみたいな。」どこかで仕入れて来たこういう話を彼女がするとき、その声はどこか別の源泉から聞こえて来る。彼女が見たいのは事故現場ではなく、ふしぎな気持ちがするからだ。  切手「赤目四十八滝」に関する本。フロイトが切手蒐集について腹話術で書いた文章が引用されている。同じページの上の方にある大型の切手は、誰かが疾駆する馬から駅馬車に飛び移ろうと身を躍らせた一瞬で、その姿が水溜まりに映っている。水溜りと思ったのは地割れで、黒曜石のような闇に跳躍が映っている。この跳躍が図案の題のはずだが、「刺客」だろうか「追跡」だろうか。  通過する電車の轟音と灯影を浴びて、犬が一匹過っていった。(「鉄カブト虫」2016年)

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