Friday, September 16, 2016

碧空849 媒質変化の三変奏

849 媒質変化の三変奏  「見てはならない影」の、「反対の頬を差し出せ」式の白状と、他の誰かの身体に転移して制御不能の人面瘡の白状とが二重に脅かす輪郭喪失の症状が瞋恚を燃やすこと(嫉妬発作)であるのは、のぞき穴が盗まれた被監視状態で迫る陰謀や追跡の気配に脅かしかけられる症状の変奏である。嫉妬発作も場所が意味になるような媒質変化で、しぐさも表情も言葉も偶然の配列も何もかもが意味深くなるのをリョーヴィンは味わう。妻のキチイがかつて結ばれるものとばかり思い込んでいた(のにアンナにほしいままに盗まれてしまった)ヴロンスキーと思いがけなく再会して何か言葉と表情としぐさを交わしているのをリョーヴィンが見ている図でも、姦通のためにそれなりの制裁と悪意に耐えているアンナと(キチイのいない場所で)リョーヴィンが親しく言葉と表情としぐさを交わす図でも、その、意味深くなる媒質変化は、のぞき穴の能所が解離しないように(存在の能所が解離しないように)のぞき穴が励起されて、キチイもアンナも極端に「私」のものであることに似てしかも極端に「私」のものであることから懸け離れる。嫉妬発作をおおう意味深さは、キチイやアンナが誰と入れ替わっているのか分からない失語症のようなものである。  この、決壊してあふれ出す意味深さは、現実であるためには「見てはならない」影を見てしまうのであり、贋の追想発作のように韜晦しているが何か透明で、「見てはならない」場所が「見てはならない」意味にスリップしてしまうのである。  このスリップは場所の場所の浮上であるから、嫉妬発作は大気が寂漠になる媒質変化の変奏でもある。それは、タイム・スリップしたような(そこにいてそこにいない)除外の衝撃であって、隠沼に出たように心が届かない。

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