碧空893 エラーの正体
893 エラーの正体
姦通性が媒体性の遠い谺であるように、近親相姦は個虫が部分の振りをする発芽の遠い谺で、自家生殖が無性生殖を変形して相続しているようなものである。トマス・サトペンの家系が蜃気楼であるミステリは、混血の衝動が潜在的な近親相姦に解消し、tabula rasa に遡上してしまうのである。トマスと対いの娘ジューディスは、異性であるために瓜二つの弟ヘンリーと対い、腹違いで清教徒ではないために瓜二つの兄チャールズ・ボンと対い、ジューディスと腹違いで肌の色が懸け離れているために瓜二つのクライティも影のようにして対い、四つの名を持つチャールズ・エティエンヌ・サン=ヴァレリー・ボンも影のようにして瓜二つの黒人猿と対い、そしてまるで勝利したように記憶も野心もなく白痴じみたジム・ボンドの発芽はtabula rasa 「誰もいなくなった」気配なのである。
トマス・サトペンの家系に一体何が起こったのか。疫病のようにサトペン荘園に猖獗を極め、息を潜めるものが何かを知って愕然とするのではなく、罪ではなくどんなエラーをおかしたら「AND THEN THERE WERE NONE」になるのか、そのエラーの正体をトマス・サトペンがクェンティンの祖父に問いかけたのは、犯人と死体と犯人を探す者と犯人を裁く者とが分業しないような、駆り立てる力によって滅ぼされるというような擬似摂理が、サトペンの簡素な語彙ではエラーに解消してしまうからである。(「Absalom,Absalom」)


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