碧空894 頭を掻くように(笑顔になるように)物語る
894 頭を掻くように(笑顔になるように)物語る
大サトペンが器官を二重に延長して、小サトペンがもう一人の小サトペンを射殺することは、重婚や近親相姦や黒白雑婚の禁忌も踏み越える混血の衝動を打ち消すのであるから、姿を晦ました小サトペンはサトペン系というよりは寧ろコールドフィールド系の逃亡なのである。
老ローザに薄気味悪く迫った1910年の崩れかけたサトペン屋敷に潜む「誰かがいる」気配、個虫が部分の振りをする発芽の気配の、その一つの解が何処かに逃亡しているはずの小サトペンであったことは、思いがけないだけではなく、ナルキッソス的なものである。つまり、サトペン屋敷の開かずの間の闇に浮かび上がった顔はコールドフィールドであってはならない、そのようにエコーして老ローザは魅惑されているのである。
Miss Rosa Coldfield に大サトペンが加えた凌辱と嘲弄の償いをさせようとする擬似摂理は、射殺の瞬間に起動したのであるから、老ローザの遡上する予言と成就はエコーに過ぎない。しかし、駆り立てる力(血から)によって滅ぼされるのはサトペンだけでなくサトペンと懸け離れているが似ているコールドフィールドでもある擬似摂理に面して、狼狽するのである。
そして、擬似摂理に面して、エラーに面して、狼狽から頭を掻くように(転移発作的に)髑髏の一部を剥き出しにして笑顔になるように(模写発作的に)老ローザも大サトペンも物語らないではいられないのである。(「Absalom,Absalom」)


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