碧空956 余計なマリア、多声で変奏するリンチ
956 余計なマリア、多声で変奏するリンチ
宝は本当の持ち主が接近すると光り出す。宝を守護する怪物が驚くのは、その接近が自分のようではない気配に瞋恚を燃やすのである。フレム・スノープスがユーラ・ヴァーナーを守護する怪物であるのは、宦官のように不能であるからではなく、ユーラが阻むものなく浜辺に青くしき波が打ち寄せる如くだからである。
ユーラの18年間の密通、姦淫は、ユーラのまるで自生の状態の焦燥と疼きが18年もの間何をしたらいいのか、何をされたのか分からなかった春愁のようなものの不可解な持続である。それが、フレム・スノープスと(懸け離れているが似ている)ギャヴィン・スティーヴンズが(あるいは清教徒のジェファソンが)18年もの間守護したものなのである。
それが、ユーラが円形に浮き彫りされた記念碑ができあがって、現像液に浸されたように浮かび上がって来た顔が能面の孫次郎のように誰にも似ていないがPsyche、Eros、Venus、Juno の収斂である奇形嚢腫中の余計なマリアの再解釈、清教徒のジェファソンが多声で変奏しなければならなかったリンチなのである。
だから、清教徒のジェファソンではあるが監督派のチャールズ・マリソン少年や、簡単に数えられる2名のユダヤ人や1名の中国人と同じような出自に属するジェファソンのV.K.ラットリフの、別々ののぞき穴を通した目撃が、漠として感じていた春の憂鬱は、縛り首の気配なのである。
その、ジェファソンの春の憂鬱は、ユーラのピストル自殺死体となって「思いがけない景色」を受肉して、ジェファソンは忽ち南部の蜃気(あるいは淵)にしてヨクナパトーファ郡に流されるのである。(「町」W.Faulkner)


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