Thursday, March 16, 2017

碧空970 蔽いかける心臓の鼓動のような十月の光

970 蔽いかける心臓の鼓動のような十月の光  「来週になると十月であり、三十八年前のあの日、彼が初めて汽車の窓から見た時、異様に思えたこの平ったいデルタ地方には、たいして見るものはなく、あるのはただ棉の茎と糸杉の葉だけだった。だが、山あいの故郷では、いたるところがヒッコリーやゴムやかしわやかえででもって金色と真紅に色づいているだろう。そして古い畑はよもぎにおおわれたり、真っ赤なぬるでがかさかさ鳴ったりしているだろうが、三十八年のうちに彼はそれを忘れてしまっていた。  その時突然、記憶の底のどこかから、一本の木が、一本だけで生えている木が、浮かんできた。」  それは、殴られてばかりいる二番目の母親がリスを食わなくてはならないというので、自分の身の丈よりも長い猟銃を持ち出して、眠気のような十月の陽差しのなかでリスが現れるのをじっと待っていた、あのヒッコリーの木だった。それはとっくに切り倒されて薪にされたか、車の輻か、馬具の横木になっているだろうし、そのヒッコリーの木の場所さえ掘り返されてもはや場所ではなく畑になってしまっているだろうが、十月の光そのもののような霊的抽象になったヒッコリーの木は眠気のような十月の光のように意味深く、というのもそれは重力のように引きつけるだけでなく、リスとなって現れ、現れるだけでなく食べるように誘う黄金の存在、本当の持ち主、本当の話し主が接近して来ると光り出すトーテムだからである。呱々の声はそれを、蔽いかける心臓の鼓動のように漠として予期しているが、現前しない限りそれが何であるか解明されないし、現前したとしても本当の正体は分かりはしない。(スノープス三部作、ミンク・スノープス W.Faulkner)

0 Comments:

Post a Comment

<< Home