碧空971 心臓の鼓動のような光のなかの独歩
971 心臓の鼓動のような光のなかの独歩
ツチスガリはミツバチのみを狩るというが、ツチスガリが地表によろめき出たとき既にしてミツバチが絶滅していたらどうなるのだろうか、鬱然として間に合わせにマルハナバチでも狩るのだろうか。そうだとしてもそれは、即興なのだろうか、むしろ狼狽からの転移発作で、事故やエラーに見えないか。
ミツバチが視界に姿を現わさないツチスガリの境遇とは違って、フレム・スノープスの不能では、ちらちら視野を過る異性の意味が鬱勃と肉薄しないのであるが、ミツバチが姿を現わさないために上り詰めて来る衝動が解明されない焦燥と同じように、この世に転がり出た意味が喉元まで上り詰めて来るのにいつまでも現実とならない度忘れ状態に狼狽することになる。この世の意味が、蔽いかける心臓の鼓動でも純粋な興奮を誘う異性でもなく、転移発作的に通貨が器官を延長することを偶然か事故のように見つけ試しに通貨を蒐ることになる。しかし、その模写能を蒐集、蓄積し、貯蔵あるいは拡散して器官を延長しても何をしようか、と言うような焦燥は直らないし、エラーじみているが意志の振りをし、しかしどの世代も源泉とはならない生きる命令から(盗まれた火の誘惑の猛威から)免疫というのではなく、どこまでいっても「試されている」のである。
媒体を随意に駆使するように見えても不随意の情熱から免疫ではなく、盗まれた火がこの世に持ち込まれることで、まるで運命が躱せるかのようなのであるが、しかしそれは、遠近法の効果で盗まれているかに見える運命に不随意に追いついてしまって、不覚にも驚かずにはいない。(スノープス三部作、フレム・スノープス W.Faulkner)


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