碧空1017 気味悪い形見
1017 気味悪い形見
屋根裏部屋に深々と分け入ってハンスがもう一人のハンスを発見するように、ジェファソンの海賊匣や監獄に深々と分け入る、その、外延的に焦燥が広がるズーム・アップの果てに「水仙」のように気味悪い形見がエコーしているのに出くわす。(ヨクナパトーファ郡 W.Faulkner)
見透せない濃霧なのか騒ぐ波紋なのか龍なのか輪郭喪失の衝動を想起する雌雄同体の受胎は、雌雄異体の気配を媒質にした遠近法の効果からは姦通に見え、洗礼派やメソジストの雌雄異体の道徳を蛇のように疼き抜けて「雨樋を伝って駆け落ちする」脱皮の身振りは、この盗まれた受胎の、気味悪い形見のようだ。
南北戦争の戦場から送り返される気味悪い形見が人知れず生気を洩らしているのは、それがズーム・アップの極で決壊し、実体の揮発が悪疫のように人の形をして襲うからである。
そのようにして、雌雄異体の焦燥とも疚しさともつかぬ気配の、その、前景と全背景に遠心分離した現在の広がりをズーム・アップしていくと不意に、監獄の囚人に食事の世話をする掻き傷ほどの家族の、掻き傷にもならないひ弱な少女が小部屋の曇った窓越しに空ろに外を眺めている(しかし隠沼のように迫る)その顔その目を通りすがりに一目見ただけの若い兵士が、一年後に(しかし百年の隔たりを越えて)馬を騾馬に、サーベルは靴下いっぱいの種トウモロコシに換えて、もの凄い最短距離で戻って来て少女を攫っていく。そうした、郷愁も同然の実体の揮発(apparition-like suddenness)が襲うのである。


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