碧空1318 MOON WALK236(存在の不安、占有の不安)
1318 MOON WALK236(存在の不安、占有の不安)
薔薇の名前とは、薔薇を客観に転写して現実にするのであるから薔薇の存在であり、薔薇が占有する潜伏する場所であり、後れて来る主体であり、薔薇の意識である。同じようにして、後れて来る主体が書物を占有するかに見えて、書物が後れて来る主体を占有するために書物の本当の持ち主の跫音の接近を恐れて胸が潰れるような存在の不安から、すなわちその、潜伏する場所の(守護する怪物の)覚醒から、発作的に書物を死蔵して占有しようとするが、それは目の潰れるような占有の不安に改竄されて、見なければ失われもしないとでもいうようだ。
しかし、或る書物を死蔵した暗黒の異形の塔が木蔦や茨に覆い尽くされた廃墟の如くであるのは、発作的に盲目になるからではなく、この死蔵は焚書も同然だからである。発信と受信が解離しない書物の死蔵を塔の火災は客観に転写するが、その炎上そのものは笑う如く、畏怖する如く、横隔膜の痙攣や戦慄を以て死蔵を発作的に模写するのである。
胸が潰れるような存在の不安が深呼吸して目が潰れるような占有の不安に改竄される転移発作は、遠心分離する。雌雄異体の如き、笑いと畏怖の間の引きつけ合う魅力と、打ち消し合う暴力と、そして笑いと畏怖の雌雄同体の如き秘密を分け合うこととして毒を盛ることになる陰謀である。盲目の老修道士ホルヘ、膨れ上がった廃墟も同然の塔を守護する影の文書館長ホルヘ、雌雄同体の如き笑いと畏怖から笑いを除去するためにアリストテレス「詩学」の、笑いを扱った第二部の写本を焚書すればいいものを誰の目にも触れないように秘匿して毒を蓄えていく奇妙な葛藤の症状は、こうした陰謀のもう一つの解で、聴罪と告解の間の秘密でもある。(「薔薇の名前」Umberto Eco)


0 Comments:
Post a Comment
<< Home