Friday, February 22, 2019

碧空1440 MOON WALK358(制御不能の腹話術)

1440 MOON WALK358(制御不能の腹話術)  神託が恐喝じみているのは他の誰かの舌を通して告白するからであるが、怪談が妄想じみているのは膝や腹部にできた人面瘡が腹腔を通して罪業を白状する制御不能の腹話術だからである。  「誰がパロミノ・モレーノを殺したか」(M.V.Llosa )は、怪談の領土からの零落とミステリの領土からの零落とが重なる。それは犯人探しではあるが、その妥当要求は誠実でも正当性でも、またそれらが如何わしいままに共謀して変態した真性でもなく、その話法は告白でも伝聞でも推理でもなく、あるいはまた恐喝じみた神託でもなく、ボレロを奏でて唄うパロミノ・モレーロが階級や境遇や身分を超えて見初めたとされるマンドゥロー大佐の娘の、痩せっぽちで何か異様な(いかれたというのか、カモメを遠隔拡声器にして不気味に憤るというような)アリシアの、その女体にできた平家蟹の甲羅のような人面瘡が滾々と喋り出すだけでなく、アリシアを取り巻く布陣がカモメのような遠隔拡声器になった、制御不能の腹話術、すなわち妄想なのである。アリシアと知らぬ間に共謀する布陣の話法は様々に分業して拡声するが、制御不能の、訂正し難い、憤るような妄想に感染し、貫かれている。  吊り下げられたパロミノ・モレーロの残骸の、犯人が代表する罪業に迫ろうとして、アリシアを取り巻く布陣の姿をして遠隔拡声器は様々に話法が分岐するが、その、カモメのように不気味に憤る声がうわさのように忽然と消えてしまうのは、アリシアが憤るからである。しかしアリシアが憤るのは、珊瑚虫全体が個虫の振りをするからであるから、犯人は誰でもなくなる。孤独な妄想などというものはなく、妄想というものは狐臭がする。つまり、とっくに事件は闇に葬られているからこそ、過冷却状態の現在が広がるように、犯人探しに固執しないではいられないのである。

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