碧空1457 MOON WALK375(想像妊娠のような症状)
1457 MOON WALK375(想像妊娠のような症状)
耳なし芳一の、その、耳がもぎとられた耳ガ戻ラナイ!痕跡は、二重性が欠如の振りをするが想像妊娠の症状のままに(繃帯をした自画像をのぞき込むゴッホのように)何か度忘れ状態なのである。
同じようにして、丑待ちに身を浄めた娘が凝っとのぞき込む鏡が女の魂の質料化である如くにぞっとするのは、のぞき込んだ女の顔が身に覚えのない女の顔をのぞき込む、というよりまるで身に覚えのない誰かにのぞき込まれたというように、顔ガ戻ラナイ!被窃視状態が通り魔のように魅(さ)すからである。この、顔が盗まれているような想像妊娠の症状の、その腹話術の痕跡が、喉元まで蛇のように上り詰めて来ているが度忘れ状態の、そのために繰り返しあるいはかわるがわる行方知れずになる手毬唄や手毬や、兎面や猿面の腰元のようにはべる(月夜の麦畑や向日葵に渦巻いて変装する)拉致の勢力なのである。
涅槃会に、山寺に町方の娘が振り袖の姿でぞろぞろ集まって、一斉に夢中になって手毬をつき出す思いがけない景色を、鐘撞き堂の蔭からこっそりのぞくばかりの、目を潰されたようにひどくおずおずと見たことにならない症状も、それは雌雄異体の気配というより、拉致する勢力が、何モ変ワッテイナイノニトリ変エラレテシマッテイル!というように変装して、まるでエラーのような罪の気分にしていと責めに迫るのである。(「草迷宮」泉鏡花)


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