Tuesday, April 02, 2019

碧空1463 MOON WALK381(空腹の関心、真偽の変態)

1463 MOON WALK381(空腹の関心、真偽の変態)  「犬神家の一族」(横溝正史)の、あの、猟犬が獲物を見つけたように急速にズーム・アップする手形合わせのシーンのスリル、二人の男スケキヨとカズマが爛れ崩れた顔面を隠すために護謨の仮面を被った一人の男スケキヨを密かに交代して演ずる、その双子のトリックの現在証明を試すのは、スケキヨと対い形成する女珠世である。珠世が接近すると、この男は本物のスケキヨと贋物のスケキヨに分岐するのである。対い形成の本当の片割れである珠世には、カズマが演ずるスケキヨは何か違うのを嗅ぎつけずにはいない。  逆に、「飢餓海峡」(水上勉)の、対い形成の本当の片割れであるスギトヤエには、下北半島でヤエを野良犬のように通り過ぎた犬飼多吉と舞鶴の篤志家樽見京一郎は収斂する。一人の男が二人の男を演ずる双子の(異なる存在になるまで器官を延長する分身の)トリックの不在証明を試すのは、過去になるまで器官を延長して伸びた分身が独立せずに現在に一気に引き戻される恐慌のような収縮を樽見京一郎の身体に惹起するヤエなのである。  本物と贋物を分別する珠世の嗅覚を珠世の(スケキヨを身ごもった)思い出の懐中時計が代理するように、異同を分別するヤエの嗅覚をヤエの(犬飼多吉を身ごもった)10年も前の柳行李の底に蔵われていた思い出の剃刀や新聞紙が代理する。共感呪術的に、同であれば剃刀が光り出すとか、本物であれば時計が動き出すというように反応するのである。  雄と雌の分岐が闘争の極端な優越と劣位に応ずるように、真偽の分岐にも対応するというのではないが、雌雄異体の気配は真偽が気になる現在の広がりである。それは、世界の終わりが引き伸ばされた旅愁、空腹の旅であるから、獲物を探す空腹の関心に応じて、蛹が変態するように、仮の姿が本当の姿に、あるいは真が偽に変態するのである。

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