碧空1673 nautilus16(ふるえる野の花を摘んではならない)
1673 nautilus16(ふるえる野の花を摘んではならない)
鸚鵡貝の目がのぞくとは、のぞき穴を覗くと敷浪が打ち寄せている、しかも膝から下が敷浪になって打ち寄せていて驚くというふうなのだ。
この、世界の片隅のふしぎな振動は、郷愁のような悠久のような、すくなくともそれは、恐れや怒りや悔いなどの、後れて来る主体を脅かす動顛ではない。
見てはならない鶴女房の、あの壁に写る異類の影のように、あるいは誰にも話してはならない雪女房の、あの真っ白い面影のように、蜘蛛の巣から(野の花を摘むように)指先にとって放してやった白い蝶々をめぐっては、どんな禁止があるのだろうか。
鶴女房も雪女房も、見て欲しいから見ることを禁止し、話して欲しいから話すことを禁止するのであるから、その忍びの術は誘惑なのである。「紅楼夢」の場合も、別の世界で水やりしてもらってふるえていた花が、急に下界に興味を抱いたあるじを追い慕って下界まで降りて来ても人体に身を窶す脆弱は隠しようもなく、そんなふうにして気づいて欲しいのだとすれば、それは、ふるえる野の花を摘んではならない、とでも禁止するのである。


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