Thursday, June 11, 2020

碧空1766 nautilus109(双子の霊に罹る)

1766 nautilus109(双子の霊に罹る)  配偶の旅とは、本当の自分を探すというようなことではなく、誰でもなくなる危機の断崖で、他の誰かになれる、跳躍とも墜落ともつかない変容である。あるいは少なくとも、寛大にも他の誰かと間違えられるタイム・スリップである。配偶の旅にかかる暗騒音は、命令を忘れないように忘れる亡命の、その、奇形に出るElpis である。  カナンの地へ帰還したヤコブの時計はひどく遅れているはずだが、Elpis 「の」伝達の即興的表現は、跳躍とも墜落ともつかぬタイム・スリップやfugue (夢中遊行的失踪)ではなく、ラケルがやっと胎を開いてヤコブに生まれたヨセフが、ラケルの生殖器官が延長して姉レアや側女たちとなって生まれた異腹の兄弟たちからは悪まれて、エジプトへ向かう旅商に銀20枚で売り飛ばされ、さらにはパロの侍衛の長ポテパルに売られて奴僕に転落する、というように「私」が他の誰かに変脱して展開する。拉致も同然の、この、配偶の旅の変奏はむろんtwice-toldの気分に罹っている。  カナンの地に20年振りで戻ったヤコブは、ヤコブと瓜二つの(しかし、カナンの地を離れない)配偶の旅の、エサウと呼ばれるもう一つの奇形に出るElpis と対面する。しかしそれは、20年の懸隔を鏡面とする蜃気楼である。個に迫ろうとして、偶然に迫ろうとして偽に出てしまう。同ジヨウニシテ、20枚の銀を鏡面としてヨセフの(誰かと間違えられているような)変容は、跳躍とも墜落ともつかない。  「私」に迫ろうとして他の誰かに出てしまう、そうした二重の気分に罹るのは、互いに余計なものに似ようとする双子の霊がかかるのである。ヨセフをphantom killerが襲う拉致も双子の霊に罹って、ヨセフが「私」に迫ろうとして他の誰かに出てしまう症状は、運命がかり嘘じみる。

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