碧空1925 nautilus268(致命的な遠方に出る、その反動)
1925 nautilus268(致命的な遠方に出る、その反動)
不安は、戻れなくなっていることではなく、戻って来ているのに、そのことが疑わしい「私」の衰弱の衝撃である。後れて来る「私」を包む遠近法の気分ではなく、後れて来るはずの「私」が途中までしかやって来ないのは潜伏するはずの場所が潜伏しないで致命的な遠方が迫るのである。宙に浮くのであるが、落下と区別がつかない。
家郷は、家郷である限り場所が迫り上がったりはしない。峠で振り返って見た家郷が真空に包まれて隠沼のように迫るとすれば、それは何かまるで家郷ではない。
「青年」(鴎外)が、魔女の目に誘惑されるように箱根へおびき出されるのは、西欧の諸言語の衒奇ともいえる異語の間を彷徨して遠方と夜の出会うところへ駆り立てられるのである。自由に彷徨っているはずなのに、魔女の目で物言わぬ岩や鳥に姿を変えられて姿が解けない致命的な遠方に出る、その反動のようにして、何ノ動機モナク、青年は家郷を思い出すが、時計はひどく遅れている。


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