Thursday, November 26, 2020

碧空1934 nautilus276(夜汽車が「私」に取って代わる)

1934 nautilus276(夜汽車が「私」に取って代わる)  播磨国尾道の高所で、時任謙作は、眼下を上りの夜汽車が百足のようにのろのろ走っているが、明朝には新橋に着いているのだと俄然想到して、不思議なような、嫉ましいような思いに襲われる。  夜汽車が「私」に取って代わり、まるで新橋にdoppelgaenger が出たかのように距離は怪談になる。この器官の延長の本当の持ち主は「私」なのに「私」ではないかのように夜汽車に取って代わられていて、嫉妬するのである。夜汽車の灯の中の乗客をズーム・アップするように新橋を歩く「私」をズーム・アップして、取り返しのつかない尾道でも新橋でもない致命的な遠方に出たのである。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home