Wednesday, May 17, 2023

碧空1627 nautilus578(顔を黒いレースのヴェールで覆った女性が入って来る)

1627 nautilus578(顔を黒いレースのヴェールで覆った女性が入って来る)  フレデリックはシャルロッテの光景を尋ねて女像柱を尋ねてしまう。1851年12月のルイ・ナポレオンのクーデターの際に、共和国に殉じて身じろぎもせずに立ち尽くすデュサルディエとなって姿を現わした女像柱である。男像柱ではなく女像柱が姿を現わしたのはアルヌー夫人と重なるからであるが、しかし、アルヌー夫人の貞淑振りは誘惑を恐れながら未練がましく、秘密を告解して他の誰かの事にすることもできない我慢であって、献身的に見えても女像柱というには何かが足りない。しかし、それは、ウェルテルにあってフレデリックにはない何か激烈な盲目性なのでもある。(nautilus577)  1867年3月末、ブルターニュの辺境の黄昏から、パリの夕暮れ時に、独り書斎にいると顔を黒いレースのヴェールで覆った女性が入って来る。女像柱が解凍して動き出したかのように、白髪になったアルヌー夫人の官能が白骨化する前に、欲情を振り絞るように秘密を告白せずにはいられないのである。部屋の壁にはロザネットの肖像画が掛かっていて監視しているが、見張っているのは肖像画に乗り込んだアルヌー夫人に翳る嫉妬であるから、ロザネットの手首にしたフレデリックの接吻が、アルヌー夫人の手首にした特別な接吻に昇格してしまう。  破産したアルヌー家の競売の日に、アルヌー夫人の肢体をフェティッシュに暗示する帽子や毛皮の外套やハーフブーツは、亡骸が鴉の群に啄まれるかのようにばらばらに誰かの手に渡っていったが、その最後のとどめが、この、顔を黒いレースのヴェールで覆った女性が入って来る夕暮れ時の書斎の独白的対話である。最後の手に渡ったのは目の前で裸身になる如くに切り落とされた白髪の束、欲情の束であるが、不覚にもフレデリックは取り落としてしまわないか!

0 Comments:

Post a Comment

<< Home