碧空3521 nautilus1864(不思議な後ろめたさ)
3521 nautilus1864(不思議な後ろめたさ)
木からぶら下がった黒人の、リンチの光景を見に集まった白人の人だかりのなかには若い女が何人もいて赤い口紅を塗った唇の間に白い歯を覗かせて笑っている。笑えるのは、「黒ん坊」が高々と吊るされた木の光景ではない。それは、横隔膜の痙攣のような発作ではないにしても、何か裂目が覗いて戦慄や戦慄が極まって硬直するといった模写発作の一つなのであるから。
それは、「私」に何よりも身近で何よりも疎々しい秘密が剥き出しになるのを鏡像の如く覗いてしまう、あるいは、壁に写る「私」の思いがけない影をみてしまう、その薄気味悪さを打ち消すまでにコピーして唇の間に白い歯が覗いてしまったのである。
醜怪なリンチは、告解のように、「私」の秘密を他の誰かのことにして秘密を免れてしまう。滑稽にも高々と暴露した秘密が「私」のものであるのに無自覚で、無自覚であることの後ろめたさが白い歯となって無自覚にきらめいたのである。
この不思議な後ろめたさのミステリは、「そして黒ん坊しかいなくなる」秘密に変形する。


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