碧空3615 nautilus1358(不本意な境遇)
3615 nautilus1358(不本意な境遇)
種の振りをしていた社会が瓦解すると、「私」は他の誰かの器官の延長になるまでに器官を延長して歯車になりたい、役に立ちたいと願う。それは種の良心であって、乾燥の危機に四方から集結したアメーバが一体の種の如くのたうって移動する、その、集結したアメーバの自乗が殺到するような個体に憑いた呼び声である。
「変身」(F.Kafka )が悲惨なのは、グレゴール・ザムザが朝目覚めると、或る部族の言語を話す最後の一人になっていて、それは一体の種の如き絶対の抜擢であるはずなのに、他にも誰かこの言語を生齧った、例えば妹が残存しているといったエラーを防げなかったことである。
グレゴール・ザムザは分類されまいとして遁走するが、こそこそとした毒虫になるまでしか漕ぎ出せなく、おぞましい触角も多足も易々と見つかってしまうし、その、駆除されるべき余計な歯車であることに甘んじなければならない不本意な境遇は保護とも監禁ともつかない。それは、流刑に酷似している。こんなにも意味がなくなるまでに隔離されているのに、他の誰かの器官の延長になるまでに器官を延長する「私」を再現して騙す時間が破断しないのである。
「私」が孕む矛盾である媒体性が陰謀や追跡の気配となってJ.J.Rousseauを包囲して、思考が隅々筒抜けに盗聴されているような境遇を、湖中の島の牢獄の夢想は理想の如く転写するが、この、グレゴール・ザムザの不本意な境遇は、他の誰かの器官の延長であることを取り消せない「私」となって韜晦して迫るのである。


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