Saturday, January 17, 2026

碧空3800 nautilus2143(もう恐怖をアースできない2)

3800 nautilus2143(もう恐怖をアースできない2)  耳なし芳一が耳を毟り取られて異界に持っていかれてしまったのは、そこだけ経文を書き損ねたために姿を消せなかったからとされる。  竹薮に慥かにいるのを目撃したはずの虎が、撮影した写真を現像して見ると写っていなかった、というような環境に溶け込むカムフラージュの効果に包まれて芳一が耳を除いて姿を消していたとすれば、平家の霊的視力は写真撮影の如く騙されたのである。  耳なし芳一は盲であるから、その欠落を補って鋭くなったのは霊感なのか聴力なのか異界と交流する秘密な端末は耳であったからこそ、耳なし芳一は耳までも経文に覆われるのを潔しとせずにわざととまではいわぬまでもまるでわざとではないかの如く和尚が何かうっかりするように作用を及ぼさないではいなかったのである。  耳なし芳一の耳は生首のようなもので、この、デクレシェンドの叫び声が深々と闇に吸い込まれるmetamorphosis に触れようものなら、もう恐怖をアースできない。  その後の耳なし芳一は、頭部のない、愚鈍に取り残された胴体が頭部を捜すようなものである。それは、闇に吸い込まれた本当の「私」の残骸に過ぎないのに本当の「私」に取り憑かれた究極なのでぞっとするのである。

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