碧空3539 nautilus1882(津軽の拙さ1)
3539 nautilus1882(津軽の拙さ1)
卒塔婆には満月ほどの大きさの、車のような黒い鉄の輪がついているのがあって、その輪をからから廻して、やがて止まってそのままじっと動かないなら廻した人は極楽へ行き、止まりそうになってまたからんと逆に回れば地獄へ落ちる、とたけは言って、たけが廻すと、いい音をたててひとしきり廻ってから必ずひっそり止まるのだが、私が廻すと後戻りしてしまうことがある。秋のころ、ひとりでお寺へ行って、金輪のどれを廻してもからんからんと逆戻りする日があって、私はかんしゃく玉を抑えこれでもかと廻し続けるが・・・嘘をついたら舌を抜かれて青白く痩せ衰えて小さな口をあけてせつながるのだ・・・苦衷を見透かすようにつるべ落としに日が暮れかける・・・それは太宰の「思い出」のなかに出て来て、虚構の気配を消している。この、小さな心臓を鷲掴みにした小さからぬ絶望は、その後どうなったのだろうか。
この不思議な満月の大きさの鉄輪は、嘘に関する最後の審判はとっくに終わっているが、その、生涯続く執行猶予がじわじわ責め立てる装置で、一旦吐いた嘘はもうどうしようもないのであるからせめて鉄輪の動きが望み通りになる運かエラーを待って嘘を吐いていないことにしようとする隠蔽工作は、記憶改竄の試みなのではなく、私は嘘を吐いていないから鉄輪が逆廻りしないのではなく、鉄輪が逆廻りしないから私は嘘を吐いていない、としたいのである。
この倒錯、この魔術的接続がしくじって何か届かないのは何ともはや噴き出してしまう。


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