碧空935 大気ヲ悲哀ニシテ母体が迫る
935 大気ヲ悲哀ニシテ母体が迫る
ユーラの肉体は二人の義マリアの肉体に拡大していて、この拡大あるいは輪郭喪失は、衣裳が裸体のただ歩むのについていくのにも遅れがちで、後れを取った衣裳は大急ぎで裸体に追いつくが、次の一瞬には衣裳は萎縮して肉体を覆い隠すにはまるで足らない、といったふうにわけもわからず透けて淫らだ。
どうしてユーラはその肉体以上に増幅するのか。その肉体からは遠景、中景、近景のように放浪癖や放火癖や窃盗癖や色情狂、偏執狂や追跡妄想などのような「神に差し押さえられて、公ケノモノにならない」不随意の情熱がこっそり遠心分離する瞬間に前景が全背景を代表して遠近法が解除され、ユーラの母体への遡上が一気に覚醒するのである。ジェファソンがスノープスのトーテムをスノープスの履歴に遍在的に嗅ぎとるように、ユーラのトーテムをユーラの肉体が埋め合わせている(或いは取り憑かれている)のを嗅ぎつけるが、それは回復や再現であるはずなのに何か喪失であるために、しかしDon Juanの場合とは逆に、ジェファソンは遁走するのではなく漠とした悲哀が町に波紋のように広がることになる。それはまるで、ユーラと呼ばれる責め苦がどうしてジェファソンに降りかからねばならないのか、その責めを問いかけるというふうだ。
霊的要約に昇格した打ち寄せるチカソー族のインディアンを埋め合わせるミシシッピのデルタの、その遠近法が解除されて無も同然の絶景に胸ガ潰レル如クOLD BEN が覚醒するように、打ち寄せるチカソー族のインディアンを埋め合わせる(或いは取り憑かれた)ジェファソンに大気ヲ悲哀ニシテ母体が迫るのである。(「町」W.Faulkner)


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