碧空1867 nautilus210(もう一つの受胎告知図)
1867 nautilus210(もう一つの受胎告知図)
降って湧いた聖痕は、ヤーウェがモーゼに現われるというようなテロルである。それは、種の夢を個となって贖うテロルであるが、平均値でコピーして埋め合わせる契約なのではない。
Grahamが兎唇のDolarhyde を追い詰めて兎唇に感染してしまうのは、Grahamに降って湧いた聖痕をDolarhyde を通して告白して想起しようとするのであるが、兎唇一般に解消したかに見えて沈黙したのである。聖痕はテロルであるから、Dolarhyde を襲う口唇裂は畸形の範疇としての兎唇とは何かまるで違って、初めから最後の一羽である天使が魅(さ)すのである。
聖痕のDolarhyde はどんなに身を隠しても隠れないのに驚く。Dolarhyde が「変身」と呼ぶ隠れなさ(nowhere to hide )である。Grahamが雌雄異体の気配を孕んだこの世界の片隅に逃れようとするのは、この「変身」を躱そうと足掻くのである。隠れなさを躱そうとしてDolarhyde をこの世界の片隅に追い詰めるが、グロテスクにも最後の一羽に覆われてしまう。
群の生命を個が贖うなどというグロテスクは、この世界の片隅に世界の終わりが後れて来るのではなく、この世界の片隅は世界の終わりと解離しない症状なのである。降って湧いたような聖痕は打ち消された命令が暴らさまに祟る不可解な焦燥で、偶然の個や悪や偽といった症状を一気に変脱する間に、種の夢が一過的に「大いなる赤き竜と陽をまとう女」(「Red Dragon」T.Harris)となった雌雄異体の気配は、聖痕と凌辱の交配である。つまり、「大いなる赤き竜と陽をまとう女」のグロテスクは、もう一つの受胎告知図なのである。


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