碧空787 「物語からの生還」の前触れ
787 「物語からの生還」の前触れ
トランガン角の渚で爆撃に耐えている分遣隊は佐世保で編成された特陸の分身で初雪の日に佐世保を出発したというのであるが、その分身は、マラリアに罹った兵士が宝珠の如き鶏卵を腋で温めて孵した雛がむくむくとして白い毛玉のような、栗の花のような、綿花のようにふんわりしたかたまりのなかに黄色い嘴と珊瑚屑のような趾爪がのぞいている、まるでそんなふうに、つまり、第二十六号が現れて来たような、胸潰れるような思いのメタモルフォーゼだ。白い毛玉の方は生長して今や煤黒い、ずんぐりとして背の低い、目のギョロリとした憎体な面構えだが、鶏冠はなんとも心細いというか貧弱で臍のようで「fight-or-flight 」といったふうに戦いでいるが、まるで「自由意志」のようなのである。
渚やジャングルの最終邀撃戦は白々明けのように始まったばかりであるが、三河報道班員は単独マイコールへ退く前に、まるで「自由意志」のように腹ごしらえにかかる。これは武者震いのようなもので、頭を掻くように、何度も手を洗うように発作的に腹ごしらえに転移するのである。「fight-or-flight 」に抱き竦められて狼狽することは、緊急の選択を迫られているというより、何よりも懸け離れているはずのfight とflightが何よりも似ているので驚く、というふうだが、模写発作の武者震いが変換された転移発作の腹ごしらえが「物語からの生還」を前触れるのである。


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