Monday, July 04, 2011

碧痕83 転生の二つの形相

83 転生の二つの形相
 人間性の、その擬態のエラー状態としての半解脱に面しての生体反応は、一つに神経症、もう一つは履歴改竄であるが、転生の二つの形相(すなわち、1身体を移り変わる、2誰とでも(何とでも)入れ替わる)に照応している。一つは置き換え難さに面して置き換え易さに面してしまう痙攣を魂と肉体に分割し、もう一つは移動する起源を切り離し、そのようにして反応を緩和する。
 一寸法師オスカルと一寸法師エロスの差異は、半解脱と解脱の差異である。解脱に於いて剥き出しになる媒体性や生贄であることが、その擬態のエラー状態(半解脱)に於いては履歴改竄となって祟り返す。もう一つの半解脱に於いて神経症となって祟り返している一寸法師もいるはずであるが、それがアトムである。

1「EUREKA」(青山真治)では、このアトムが、バスジャックに巻き込まれ標的は誰でもいい殺害の現場にピンぼけで居合わせる兄と妹に(その後、追い打ちを食らうように若い母が去り、女と密通していた父が死に、しかし母は戻らない兄と妹に)分割される。兄は妹の頭を通して考え、妹は兄の頭を通して考え、失声し、兄は妹の器官の延長として夢遊病のように通り魔に及び、妹は兄を通して嘔吐し、妹の目を通して兄の目に二人が未だ見たことのない海が写し出される、というように、二人の間では発信と受信の分業は廃棄され、それぞれが「私」というものを鎧っているのではなく、二人がシャムの双子のように癒着して鎧っている。家や家具や街の日常的法則性は辛うじて保存されているが、いつの間にか経過する日常的歴史性にエラーがあって、二人の目を通したカメラ・アイに写し出される風景は蝉の声がしきりでも灰褐色で、ごく稀に灰緑色が出る程度で色も湿潤も失われている。ポラロイドカメラで撮影するような単純化が、あの衝撃からというもの半抽象で停止している。しかしこれは、過ぎ去らない衝撃が半ば過ぎ去っていることの痕跡である。妹は、誰でもなくする海に面して、貝殻を通して誰とでも入れ替わり、この半解脱を通して兄と妹の癒着を解除し、声を取り戻す。 しかし、通り魔に逢うこと(生贄であること)に面しての模写発作、戦慄の極としての硬直を解くのは、海に面して誰でもなくなること(生贄であること)の、その同毒療法である。

2 死刑囚の、その死刑執行は、包囲する陰謀や追跡の気配のように総掛かりで、その勢力は誰とでも入れ替わる。
 結婚の記念旅行のために余分に「休暇」(吉村昭)を取ろうと決意したその刑務官は、絞首されて落ちてきた死刑囚の身体を下支えする役を買って出る。
 その死刑囚は、結婚のことを知って、その刑務官と女性の顔に祝福の花を添えて素描し、贈る。女性の顔は死刑囚の妹の顔に肖ている。妹が最後に面会に来た時に立ち会っていた、その刑務官は、死刑囚と妹と引き換えであるかのように、花嫁とその小さな男の子を抱き寄せる。介在するのは、三つの場面で姿を現わす蟻である。死刑囚の独房、死刑が執行される部屋、三人の旅行先の宿の部屋、この蟻は個が種を代表する限りで、身体を移り変わるのではなく、誰とでも入れ替わる。

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